ECサイトの売上につながるSNS運用とは?老舗和菓子屋が取り組むデジタル時代の成長戦略を紹介。



1.はじめに

企業にとって、消費者との接点を持つ上でもはやSNSは必須ツールとなってきています。「アカウントを開設したが、投稿内容にいつも悩んでいる」「フォロワーはある程度増えたが、ECへの流入がのびない」など、運用にあたって悩みを抱える企業や担当者も多いのではないでしょうか。
SNSの運用目的として、認知拡大や売上向上など様々ありますが、ナノカラーでは自社の事業フェーズに合わせ、適切なKGI・KPIを設定することが最も重要だと考えています。KGI・KPIを適切に設定するには、自社のプロダクトの特性や独自性を理解して、いかに消費者に伝えるか、またその特性や独自性を伝えていく手段(媒体)を検討し、相性のいい媒体を選択することも重要になってきます。
また、SNS運用で認知拡大やEC売上向上を達成していくには、ある程度中長期的な運用を見据えることが必要であり、ユーザーとの関係をしっかりと築いていくことが大切です。今回は、弊社が実際にECサイト・SNS運用支援を行っている、奈良県の和菓子屋 本家菊屋様に、Instagramを用いたKPI運用に関してインタビューをさせていただきました。
記事前半では、本家菊屋様に、運用のきっかけや、実際に運用して事業への手応えはどうだったかなどをインタビュー形式でお送りし、後半では実際の投稿を例に、ユーザーとの関係の築き方について、ナノカラー担当者がKPI運用のポイントを解説します。

株式会社本家菊屋 事業概要

  • 業種:菓子製造業
  • 取扱:ECサイト/直営店
  • 店舗数:7店舗
  • 運用期間:2021年2月~
  • 課題:若年層への認知拡大・顧客層開拓
  • 支援内容:ECサイト・Instagram運用代行
  • 事業紹介
    奈良県最古の和菓子屋といわれる本家菊屋。その歴史は400年以上になります。代表菓子である御城之口餅は、その昔、豊臣秀吉をもてなすために考案されました。本家菊屋のお店が御城の大門を出て町人街の1軒目に位置することから、いつしか「御城之口餅」と呼ばれるようになったそうです。上品な甘さの餡ととろけるような餅、そしてきな粉の香ばしさがたまらない逸品です。
代表菓子である御城之口餅

対談者紹介

  


    

   

本家菊屋
店主 菊岡 洋之 様

創業400年の歴史を守る26代目当主。昔ながらの製法を守りながらも、時代にあわせた和菓子屋の在り方を模索し、新しいことにも積極的にチャレンジしている。

   

  


    

   

株式会社nano color
杉山 緋奈子 カメラマン・SNSクリエイティブデザイナー

InstagramのKPI設計・コミュニケーションコンセプト・投稿ビジュアル撮影を担当。商品の魅力を誰に、どう伝えるべきかの仮説立てを行い、ビジュアルの構図や、投稿文・投稿頻度を考え実行している。

   

  


    

   

株式会社nano color
西澤 菜摘 デザイナー

Instagramユーザーとの会話・連絡をはじめ、コミュニケーション全般を担当。本家菊屋様と同じ、奈良県出身・在住。毎月のKPI運用分析とその結果数値をもとに、ユーザーとの繋がりをより深くするキャンペーン施策や、コンセプトの見直しを考案している。フォロワーへの丁寧な返信にも定評あり。

   

2.Instagram運用のきっかけを教えてください

菊岡: まず、当店とナノカラーさんの歴史から話しますと、楽天市場が開設された1997年頃まで遡ります。開設されてからすぐ出店し、自分で試行錯誤しながら対応していましたが、検索すれどもすれども自社の商品に辿りつかず…コンサルの方に相談したところ、ナノカラーさんを紹介してもらいました。その後、数年がたち、楽天・Yahoo!をはじめとするECモールの体制が整ったところで、ナノカラー代表の川端さんから「自社サイトもつくって利益を会社に残しつつ、利用者の拠り所となるような場所を作っていきましょう」と提案を受け、現在のECサイトが完成しました。
オンラインでの売上は年々あがってきておりますが、2020年以降はコロナ禍に入ったこともあり、よりオンラインを強化していきたいと感じておりました。そこで2020年の早い段階からナノカラーさんに相談していたところ、「和菓子」の特徴的な見た目や味に感度が高く、今まで獲得ができていなかったユーザーとのタッチポイントを増やすために、Instagram運用で新しいコミュニケーションを作っていきましょうという話になりました。
当店では、実店舗にお越しいただく顧客の年齢層が高く、中長期的な施策として、若い方々など幅広い年代へ顧客層を広げていきたい、また、ファン層を広げていきたいと考えていましたので、SNSを通じ、本家菊屋を知っていただける機会を増やしていきたいと思いました。

本家菊屋公式Instagramより

杉山: 本家菊屋様の和菓子は、見た目が素敵な商品が多く(もちろん味も美味しいのですが)、Instagramとの親和性が非常に高いです。なので、ユーザーに情緒的に訴えやすいと考えました。Instagramの運用を考えたとき、自社の事業フェーズに合わせ、適切なKPIを設定していくことが重要になります。
本家菊屋様においては、はじめて公式アカウントを開設するフェーズでしたので、ターゲットとなる生活者の人物像の仮説立てや、投稿の世界観から設計し、将来的に顧客となってくれる可能性のあるユーザーの獲得を目指すゴール像の設定からスタートしました。また、すぐに売上に貢献するという短期的なセールスコミュニケーションではなく、中長期的なブランドコミュニケーションを介して良好な関係を築いていくご提案をしました。

3.Instagram運用をはじめてどうでしたか?

菊岡: Instagramは若い方々が利用しているイメージだったので、運用をはじめれば若年層のフォロワーが増えるのかなと相談前は思っていました。しかし蓋をあけてみると、今の顧客とほぼ同じ年齢層であることがわかりました。従来の「ECサイトで購入して終わり」というコミュニケーションでは叶わなかった、長年ご愛顧いただいているお客様のお顔がわかった気がして、商品をご満足いただけている確かな手応えとともに、嬉しさが増しました。
オンラインでの売上は年々あがってきておりますが、2020年以降はコロナ禍に入ったこともあり、よりオンラインを強化していきたいと感じておりました。そこで2020年の早い段階からナノカラーさんに相談していたところ、「和菓子」の特徴的な見た目や味に感度が高く、今まで獲得ができていなかったユーザーとのタッチポイントを増やすために、Instagram運用で新しいコミュニケーションを作っていきましょうという話になりました。
それと同時に、若年層の方には異なる角度のアプローチが必要であることがわかりましたので、先日開催した「フォロワー1,000人達成プレゼントキャンペーン」では、今まで発信が届いていなかった若年層のフォロワーを増やすことができました。
こういったキャンペーン施策を定期的に行っていくと、本家菊屋という屋号をご存じなかったお客様との接点ができるので、非常に有効的な認知の拡大だと感じました。
また、当店では地元の奈良県から飛び出し、首都圏の百貨店へ催事出店することも多くあります。オンラインとオフラインを繋げる施策のひとつに、催事開催中のリアルタイムで、催事風景のストーリー投稿や、ハッシュタグ投稿を実施したところ、実際に「投稿を見て来てみました!」というお声もいただき、お客様に足を運んでもらうきっかけとなっています。リアクションをしてくださったり、タグ付けをして投稿してくださる方もいて、コミュニケーションがとれる温かみを感じますね。少しずつですが、ECサイト、実店舗ともに新たなリピーター様も多く、当店のファンになってくださる方も増えてきていると感じています。
西澤: 運用をはじめてから、キャンペーン施策はどこかのタイミングでご提案しようと考えていました。キャンペーンは、フォロワーやエンゲージメント、UGCを増やすのに効果的な施策と言われています。ただし、それを真似するだけではうまくいかないことも理解しています。まず今回は、アカウントからユーザーに対しての「投げかけ」をしたときに、どれほどのリアクションがつくのか検証をすることをKPIのひとつに置いています。また、初めてのキャンペーンということもあり、「フォロー&いいね」のみで応募できるよう、ユーザーの参加ハードルを低く設定しました。
さらに、Instagram運用開始時には10〜30代の層が45%でしたが、キャンペーン終了後には59%にまで増えました。一般的には、「フォロワーが増えるのはキャンペーン期間中だけ」ということが多くありますが、本家菊屋様の場合は、キャンペーン終了後もキャンペーン期間中にフォローした方の多くがフォローを継続しています。ポジティブな認知とアクションが得られた結果はスタート地点と捉え、これから「本家菊屋」ブランドをより深く知ってもらい、好きになってもらえるようコミュニケーションを図っていきたいですね。
公式アカウントでは、コメントへの返信、ハッシュタグ投稿のリツイートなどのコミュニケーションをコツコツと継続的に続けています。こうした日々のコミュニケーションも、フォロワーとの関係値を築くために非常に大切な施策の一つです。実際に、#本家菊屋がついた投稿数は増加しており、運用開始前の年の投稿数と比べると、2022年の投稿数はその数を既に上回っています。
 

4.今後の展望などございますか?

菊岡: Instagram運用をはじめてから、自社ECサイトへの流入元はInstagramからが常に50%以上となっています。70%を超える月もありました。これは、運用をはじめてからすぐに感じた効果でした。Instagramで本家菊屋を知ってくださったお客様がECサイトをのぞいて、より本家菊屋ブランドのことを理解してくださると、そこから購入していただける機会も増えるのかなと思います。
ただ、売上の数字に直結させたいというよりかは、Instagramを通じて本家菊屋に濃いファン層の方々がついてくださることが、なにより大切だと考えています。また、今後は製造風景の動画など、商品の紹介だけでなく、お客様に楽しんでもらえるような発信もしていければ面白いなと思っています。
西澤: 菊岡様のお話しにもあった通り、運用初期からInstagramから自社ECサイトへの遷移率はあがっています。
また、SNS運用における認知拡大のKPIの指標のひとつとして非常にわかりやすいのが、「指名検索の増加」です。指名検索が増えることは、それだけ本家菊屋様の社名を認知している方が増えたということであり、一般キーワードで流入してくる方よりも、購入角度が高いお客様が多いと一般的に言われています。運用開始月の指名検索は65件でしたが、1年後の同月では、125件に増えました。
本家菊屋様とは、毎月月次報告会を行っており、ざっくばらんにお話し頂く中で、菊岡さんが感じておられる課題をヒアリングしています。Instagramの使い方から、ECサイトを含めた中長期的な施策まで、お話しすることは多岐に渡っておりますが、いつも積極的な姿勢でご検討くださるので、ありがたいです。今後も本家菊屋様の課題解決のお手伝いをしていきたいと思っています。
今後の展望について熱く語ってくださいました。デザイナーの西澤さんと。
ここからは、実際の投稿を例に、どのように投稿内容を組み立てているのか、またその前提としてのペルソナや世界観の設計について解説していきます。

5.将来の顧客となり得る人物像を設計する

自社の商品やサービスを使ってくれる生活者、ここではユーザーと呼びますが、どんな人物像かを設計していきます。
本家菊屋様の例では、和菓子好き・インスタユーザーを前提に、2軸でペルソナを設計しています。
さらに性別や年齢層、価値観や趣味嗜好などの情報を設定していくことで、より具体的な人物像を設計していきます。空想や架空ではなく、実際にメディア(Instagram)に住んでいる生の生活者像(ペルソナ)を組み込んで事前に仮説やKPI設計することで、投稿で発信・リーチすべきユーザーが明確になり、コミュニケーション施策も検討しやすくなります。

6.特性や独自性が伝わる構図づくりを

業態により変わってきますが、メーカーであれば、自社のプロダクトのビジュアルがメインとなります。本家菊屋様の場合、例えば代表菓子である御城之口餅ひとつでも、正面/真上/断面/パッケージ入り/食べようとしているシーン/お茶と一緒に食べているシーンなど、何パターンもの構図が検討できます。自社の商品数によってもかわってきますが、人物はいれない、アングルは1カットのみなど、自社の商品特性にあわせて、ビジュアルのルールを決めていくと、より統一感のある投稿になります。
「見やすい」や「伝わりやすい」は実際に投稿を見るユーザーが決めることですから、リアクションをヒントにさまざまな構図に挑戦していきます。
ひとつの商品で何パターンもの見せ方ができる。
本家菊屋様の実際の投稿ビジュアル(Instagram公式アカウントより)

7.ユーザーとのコミュニケーションを促す

投稿文にいれるハッシュタグは、毎回固定で入れるキーワードに加え、ビジュアルに関連のあるキーワード、検索ボリュームの高いキーワードを組み合わせて入れることで、Instagramのフィードに表示されやすくなり、和菓子に関する情報を集めている・求めているユーザーへリーチしやすくなります。広告のように細かな興味関心のセグメントへの集中配信などが叶わないからこそ、まずは表示回数を地道に増やしていく、というイメージですね。実際に、ハッシュタグ検索からの流入数は、運用開始初期と比べて、3倍に増加しています。
また、ユーザーがやってみたくなるような仕掛けづくりも有効です。
例えば、本家菊屋様では自社の商品を使って、季節にあったお菓子がつくれるレシピを投稿しました。この投稿をみたユーザーが、実際に作った写真をハッシュタグつきで投稿してくれることで、新しいUGCが生まれ、さらに他ユーザーからのアクションも期待できるようになります。
夏に行った、本家菊屋様の「金魚」を使ったゼリーのレシピ投稿(Instagram公式アカウントより)

8.まとめ

今回の記事では、Instagram運用を一例に、消費者との接点をつくる施策についてご紹介しました。自社のプロダクトと、ユーザーに求められているコンテンツをまずは理解し、それをどんな媒体で運用し、いつまでに・どれくらい・どんなKPIを達成していくべきなのか、検証を繰り返しながら施策を実施していくことが重要です。そうすることで、効果的に消費者とのコミュニケーションを図ることができ、ブランドの理解や、ファンの獲得につながっていきます。
ナノカラーでは、依頼側の「自社課題」を丁寧にヒアリングし、事業フェーズや商材に合わせたプランニングを提案することを心がけています。「ただ漫然と投稿・発信しており、KPI設計を用いた運用ができていない」「ユーザーとのコミュニケーションを図っているが、思うようなリアクションがない」などといったケースなどの豊富な相談実績がありますので、お気軽にご相談いただければ幸いです。

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